1月26日土曜日の夜、楽しみにしていたテレビ番組が急遽中止となり、スポーツ中継が延長されることになりました。そして目の前で大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝という快挙、そして同時に世界ランキング1位が確定という瞬間に立ち会いました。
大坂なおみ選手は21歳。若く、力あふれるテニスが得意ですが、精神面ではまだ課題があると指摘されていました。試合中うまくいかなくなるとイライラしたり、ラケットをたたきつけたり、泣き出したり…。今回もそういう場面が多くありました。しかし、第二セットを落とし、いよいよこの流れの中で負けるかも…というとき、ロッカールームに戻り一人で泣いて、気持ちをリセットし再びコートに立ちました。そして迎えた第三セットは、第二セットのいやな流れを断ち切り、自分のテニスに集中して見事優勝を手にしました。
自分の弱さを知り、向かい合い、うまくコントロールして、最後まで勝負に集中してあきらめなかった結果の勝利でした。この勝利により、これまでの世界ランキング4位から1位、つまり世界の頂点に立ち、世界中のプレーヤーから追われる立場になった瞬間でした。
対戦相手のペトラ・クビトバ選手はチェコ出身の選手。クビトバ選手の武器は身長182センチの長身を生かし、左腕から放たれる強烈なサーブ。右利きの選手にとっては利き手ではない方に飛んでくるために特に効果的でした。そして今回、大坂なおみ選手とは決勝戦で一進一退のフルセットを戦い抜きました。
恵まれた体格、天性の運動神経、そして若い大坂なおみ選手にはない、全英オープン2度の優勝やオリンピック銅メダルやなど豊富な経験、すべてを持ち合わせていたのが対戦相手のクビトバ選手。そのクビトバ選手を2016年12月に不幸が襲います。ボイラー点検技師を装い自宅に入ってきた強盗に襲われ、身を守ろうとしたとき、テニスラケットを握る左手を刃物で刺されてしまうのです。その傷は深く、神経と腱の修復手術を行うほどのものでした。そして5か月にわたる治療とリハビリを耐え抜き、新しい感覚の手でテニスラケットを再び握り直し、練習を再開したそうです。
そしてその不幸な事故からわずか2年後、全豪オープンで大坂なおみ選手と決勝を戦うまでに再起したのです。
「最後まであきらめてはいけません」とはよく言われますし、頭でもよくわかっています。でも、そんな言葉を何十回聞くよりも、今回の二人のストーリーから学ぶことの方が、はるかに説得力があります。
今の自分を知り、なにかのせいにせず、自分のこととしてひたむきに努力を重ねてきた2人の「あきらめない」生き方は、とても格好よく見えます。
2019年が始まりました。6年生は全員が中学という新しい世界へ挑戦します。また今年、いろいろなことに挑戦する人、がんばる人も多いと思います。今回の決勝戦で戦った2人のことは、これからをがんばる人を支えてくれる強い励ましになると思いました。
教頭 田村 一秋
(学校だより けやき 第488号2019年1月29日発行)