図工室の日常

 絵が好きな子、絵はあまり好きじゃないけど工作なら負けないと思っている子、粘土を触るのが大好きな子、きっちりやらないと気が済まない子、心の赴くままに表現する子、ちょっと苦手だと思っている子・・・どんな子にもやってくる週1回の図工の授業。
「今日は何をするのかな。」そう思いながら、図工室の扉をくぐります。その時間の課題を知った時の反応や説明に聞き入る姿に刺激され、いつの間にかこちらも熱が入ります。さあ、スタート。作り始めてからわからないことに気づいたり、悩んだり、周りが気になったり。みんなが思い思いに作品に取り組みます。2時間の授業の中で、どの学年も、シーンとする時間が生まれます。鉛筆の音だけ、ハサミの切る音だけが教室に響きます。一人ひとりの息づかいさえも聞こえてくるような素敵な時間。そんな時はこちらも一緒に作品づくり。「何、作ってるの?」「その飾りの作り方、教えて!」ちょっとしたタイミングで子どもたちの作品は大きく変化し、新しい技を習得していきます。子ども達の興味とこちらの課題がピッタリ合うとそれは素敵な結果に結びついてくれます。もちろん全然噛み合わなくて空振りの時もありますが、そんな空振りの時でもよく見ると素敵な作品が生まれています。だから、子どもって素敵です。

 自分のことが大好きで、自分のつくった作品が大好きなのが低学年。出来上がった自分の作品を見て「今日、持って帰ってもいい?」「ダメダメ。乾いてから。来週かな。」「やだ。持って帰って見せたい。」制作終了後のいつもの会話。昇降口に飾った作品も気がつくとそっと持って帰っていたりして・・・可愛すぎて、心が温かくなります。幼い時はみんな自分の才能を思いっきり使って表現することができます。
 学年が進み成長すると、自分の表現力や技術力といった壁につきあたります。もっと綺麗に、もっとかっこよく、本当はこんな風に表現したいのに・・・うまくいかない。自分の理想とは違ってしまった作品にがっかりすることもあります。そんなギクシャクした感じが一番の魅力なんだけどなあ。みんながみんな整った作品じゃないことが素敵なんだよ。大人になってしまった教師は一生懸命伝えます。

 「大人になってしまったら、この絵は描けないよ。」自分は図工が苦手とだけは思い始めて欲しくない大切な時期だと思っています。
 担任の先生が教えてくれる自学の授業レポートも楽しみの一つです。「頭の中には脳みそが入っているんだ。」「平筆の使い方を習ったら、角もきっちり綺麗に塗れてびっくり。」「ランタンに電気を入れてかざったら、光がとても綺麗でした。」「作品をお母さんが玄関に飾ってくれたよ。」「粘土で作った羊の頭の形に納得がいかなかったので骨の形を調べました。次は羊らしく作りたいです。」意外に感じるかもしれませんが、何かに気づき考えるきっかけを図工の授業で見つける子どもたちがたくさんいるのです。気づくことは、描いた絵の向こう側、作った立体作品の向こう側にあるもの。自然だったり、過去の作家の作品だったり、自分の生活だったり、ありとあらゆること。図工=実技だけではないのです。

 今年度から新学習指導要領が実施になり、「主体的・対話的で深い学び」に向けて図工も新しい授業の形を組み立てていかなければなりません。「主体的」では、子どもたちが「作ってみたい」という思いで積極的に課題に取り組みます。それには魅力的な課題の準備が大切です。「対話的」では、教師や友だちとのやりとりから見方や考え方、表現方法を広げていきます。そして、「深い学び」では、制作活動から新たな発見や考え方を見出し、より良い表現をしていくようになることを目指します。新しく始まった図工の授業では、バランスよくこの「3つの学び」が関連することが大切なポイントになります。

 いろいろな考え方から1つの答えを導き出す教科とは違って、1つのことから違う答えがたくさん出る教科が図工。いっぱい失敗して、いっぱい人と違うことをして、いっぱい「できた」という喜びを味わって欲しいと願っています。そして、お家の人は子どもたちの作品をたくさん褒めてあげてください。今年度の学年の終わりにスケッチブックなどにまとめて作品を持ち帰る予定です。できたら、取っておいてあげてください。大人になってからの楽しみに・・・

校長補佐 / 図工担当 関 幸子

(学校だより けやき 第509号2021年1月28日発行)