「話す」ことは「放す」こと

 朝夕の冷え込みが厳しくなり、街の木々もすっかり色づく季節となりました。日が落ちるのも早くなり、どこかふと心が寂しくなったり、疲れを感じやすくなったりする時期でもあります。

 さて、心理カウンセリングの世界では、よくこんな言葉が使われます。「『話す』ことは、胸のモヤモヤを外に『放す』こと」。自分の悩みや不安を頭の中だけで考えていると、だんだんと自分の心を圧迫していきます。ですが、その気持ちを誰かに「話す」ことで、言葉という形にして心の中からそっと「放す」ことができます。悩みがすぐに解決しなくても、胸の外に出すだけで、心にはふっと新しい風が吹き込む余白が生まれるのです。

 これは子どもたちの日々の生活を見ていても強く実感することです。困ったことがあったとき、誰かに「聞いてほしかっただけ」という場面は案外多いものです。大人はついつい「こうすればいいんじゃない?」とアドバイスの手を差し伸べたくなりますが、まずは「そうだったんだね」「それは大変だったね」と気持ちを受け止めてもらえるだけで、子どもは「話を聞いてもらえた」という安心感を得て、次に踏み出す力を取り戻していきます。

 そして、この「話す・放す」ことの大切さは、子どもたちだけでなく、日々温かく子どもを支えていらっしゃる保護者の皆様や教職員にとっても全く同じです。日々の育児や仕事の中で、「こんな些細なことで悩むなんて」「自分がもっとしっかりしなきゃ」とひとりで抱え込んでしまうことがありませんか。まとまらない考えや、言葉にならないモヤモヤがあれば、どうぞそのままひだまりルームにお持ちください。

 北欧の物語「ムーミン」の出版80周年スローガンに「The door is always open(扉はいつでも開いている)」という言葉があります。作中に登場するムーミンやしきには鍵がなく、どんな生きものでも温かく迎え入れる居場所として描かれています。誰でもふらりと立ち寄れて、ありのままの自分でいられる場所がある、それは子どもにとっても大人にとっても、大きな安心感につながります。ひだまりルームもまた、ムーミンやしきのように、どなたでも温かく迎え入れる場所でありたいと思っています。寒さが増すこれからの季節、肩の力を少し抜きながら、ホッとできる時間を大切に過ごしていきましょう。いつでもお気軽にドアを叩いてくださいね。

スクールカウンセラー 川村 郁子
(学校だより けやき第572号 2026年10月29日発行)